
次の図はノルアドレナリンとアドレナリンの構造を示したものだ。





お~、ほとんど同じですね。ノルアドレナリンの「-NH2(アミノ基)」の「H」が1個はずれて、代わりに「メチル基(-CH3)」がついたのがアドレナリンなんですね。



どちらも「-OH」「-NH2」「-NH」ついているので…



…水に溶けやすそうですね。



そのとおり。ただし、アドレナリンには「-CH3」がついているので、ノルアドレナリンに比べると若干水に溶けにくい。
ちなみに同じアミン系ホルモンであるチロキシンはこんな構造をしている。





お~、ベンゼン環が2個もある。これは水に溶けにくそうですね。



そうだね。「-OH」や「-NH2」はあるけれど、ベンゼン環が2個もあるので水には溶けにくい。
さて、話しをノルアドレナリンとアドレナリンに戻そう。





上の図からわかるように、ノルアドレナリンとアドレナリンはとても似ている。なのでこれら2つの物質は細胞表面の同じ受容体に結合してしまうんだ。
ではここで問題です。これらの2つの物質に作用の違いはあるか、ないか?



ええ? だって同じ受容体に結合してしまうんだったら作用に違いなんてないんじゃないの?



だからそれを考えるんだよ。
まず、ノルアドレナリンは神経伝達物質だ。神経伝達物質は神経終末からシナプス間隙に放出された後どうなる?



ええ~っと、酵素によって分解されたり、再び神経終末部分に回収されます。



ということは、隣接するニューロン、または組織・器官にしか作用できないし、その作用の持続時間は短いね。
一方のアドレナリンは?



副腎髄質から血液中に分泌されます。



そうだね。ということは血流にのって体中の標的細胞に作用することができるね。



そして血液中からなくなるまでその作用は持続するわけですね。



そのとおり。つまりこの問題は、自律神経系と内分泌系の違いを答えればいいわけだ。次にこれら2つの違いをまとめておくよ。





と、まあ大学入試ならこの程度でいいんだけど、もう少し細かい話もしておこう。
実は、ノルアドレナリンとアドレナリンの作用には若干の違いがあるんだ。



えっ? 2つとも同じ受容体に結合するのに?



そこなんだよ、そこ。正確には…
細胞表面にある受容体にはα1・α2、β1・β2・β3がある。で、アドレナリンはこれらすべてに結合するんだけど、ノルアドレナリンはα1・α2、β1・β3に結合する。つまり、β2には結合しないんだ。しかも、ノルアドレナリンと受容体αとの親和性はアドレナリンと比べると低いんだ。



もしかすると、あの「-CH3(メチル基)」が原因?



そうそう。もちろんそれも大きな原因の1つだ。酵素の基質特異性と同じような現象だね。
さて、そうすると、例えばノルアドレナリンもアドレナリンも体中の血管にあるα1受容体に結合することで、血管を収縮させる作用を持つ。けれど、その作用は…



ええ~っと、アドレナリンの方がα受容体のとの親和性が高いんだから、アドレナリンの方が血管を収縮させる作用は強いはずですよね。



そのとおおり。だから、止血剤としてとして血液中に注射する場合はアドレナリンの方が使われるんだ。さて、ここで問題です。
アドレナリンは止血剤以外にどんな場合に注射される?



うお、問題来た~。



まずは「血糖濃度が下がり過ぎてしまったとき」というのは当然だね。何しろ生物基礎で「アドレナリンは血糖濃度を上昇させるホルモンだ」と習うわけだからね。さて、これ以外に、ここまでの話しの流れからどんなことが考えられる?



ええ~っと、血管を収縮させるんですよね?
あっ、血圧を上昇させたいとき?



おっ、いいね。その通り。では、急に血圧が下がってしまう現象にはどんなのがある? 高校の生物基礎や生物の教科書にも載っているはずだ。



そんなのあったかな? ええ~っと・・・



それはね、アレルギーの一種のアナフィ・・・



あっ、アナフィラキシーショック!!



正解だ。
ノルアドレナリンとアドレナリンの違いは他にもある。例えば、アドレナリンは消化管を構成する平滑筋のβ2受容体に結合して、蠕動運動・分節運動、つまり消化管運動を抑制する作用もあるけれど、



でもノルアドレナリンはβ2に結合しないので、消化管運動のの抑制作用はないはずですね。



そのととおり。ノルアドレナリンやアドレナリンは薬品として使われることがあるので、医療従事者はこうした違いをしっかり頭の中に入れおかなければいけないわけだ。
ここまで話したα1・α2、β1・β2・β3といった受容体は、医師・薬剤師・看護師などの国家試験で出題される内容だ。だから、これらの学部に入れば習うことになる。



ということは、大学入試では暗記しなくていいんですね。
というわけで「生物の勉強法 第10話 「ノルアドレナリンとアドレナリンの違い」でした。大堀の代ゼミの講義「ハイレベル生物」では、こうした大学で習うような内容も雑談として話し、そこから考える力を問う問題を出して「思考力」をバンバン鍛えていきます。受講するぞ~という学生さんたち、楽しみにしていてくださいね♪